♯1


親友にも言えない恋を、私はしている…。

 

箒で床に散らばった髪の毛を一本残らず取ってから、モップで綺麗に床を磨く。

もうお客さんもスタッフもいないガラス張りの美容室は、照明だけが白白とついている。 ここでバイトするようになってもう2年。バイトは好き。

美容師になりたい、って夢にも迷いはない。でも…。

 

「七海ちゃん」

もう誰も居ないと思ったスタッフルームから、茶髪にピアス、男の人が出てきた。

彼は山崎昌也さん、指名率ナンバーワンのうちの店のトップアーティスト。 見た目も腕もいいから、人気があるのはわかる…けど。

 

「いつも最後までありがとうね。送っていってあげるよ」

私の肩に手を置いて、昌也さんはそう囁いた。

――送っていってあげる。その台詞の意図するところは、明快だ。

「車で待ってるから、戸締まりすんだらおいで」

ちゃり、とこれみよがしに愛車のレクサスのキーホルダーを指に引っ掛けちらつかせながら、昌也さんは出て行った。

 

近くのファミレスで遅めの夕食を軽く取ってから、昌也さんは昌也さんの自宅へ車を走らせる――と思ったら、ドラッグストアの前で、レクサスを停めた。

「そーいや、アレ切らしてんだ、ちょっと買ってくるから」

にやりと口角を上げて、昌也さんはエンジンを切る。この間、買ってたのに。誰といつ切らす程使ったんだろう。けど、そんな疑問を声にする権利は私にはない。

「私も行きます」

「え、どうしたの」

「…のど飴欲しくて」

そう言って閉店近くのドラッグストアに並んで入った。

あたしはのど飴を、昌也さんは避妊具を持ってレジに並ぶ。

もう時間が遅いせいか、1台しか開いてなくて、お客さんは2,3人並んでた。

昌也さんが私の肩を抱いて、小声で卑猥な言葉を囁く。 普段冷静な私が、赤くなって口ごもるのが面白いんだって。昌也さんは真性のエスだ。

「こんなとこでやめてください」

そう言ってレジに向き直ると、見知った顔が、私を驚いた顔で見てた。

 

「木塚…」

「酒井…」

ほぼ同時に驚いて、互いの名を呼び合った。

信じらんない、まさかどうしてこんなところに酒井が?

けど、動揺を見せるのも嫌で、すぐに表情を引き締めた。

昌也さんがレジ台に乗せたコンドームの箱に、一瞬酒井の手が止まった。

「袋にお入れしますか?」

緊張してるのか固い酒井の声に、昌也さんはそっけなく「そのままで」と返す。お金を払って、お釣りを貰って、店名の入ったテープを酒井が箱に貼り付けた。

「知り合いなの? 七海ちゃん」

「…高校の時のクラスメート」

「それだけ?」

「…だけ、です」

 

 

嘘になるのかな。でも、私と酒井の関係は、クラスメート以外の何ものでもない。間に、千帆を挟まなければ…。