Failure③


 

かんぱーい、と高らかなむねたの声を合図に、みんながテーブルの上でグラスを重ね合わせる。その場にいた8人全員と乾杯してから、私はカシスオレンジに口をつけた。

オレンジの酸味とリキュールの苦味が、喉を心地よく刺激して、通り過ぎてく。

 

「眞羽、この間は大変だったね」

「体、もういいの?」

「まさかミュウがぶっ倒れるとは思わなかったもんなあ」

「なあ、びっくりしたぜ」

そんな声が口々に飛び交って、いきなり話題の中心にさせられた私は、居心地悪くて、今日の幹事のむねたをちらっと見る。

むねたは大ジョッキのビールを一気に飲み干そうとしてるところだった。

 

この間、私が途中棄権した同窓会。今日はその仕切り直し…という名目で、むねたがクラスメートの何人かに声を掛けてくれて、実現したもの。

もちろん、規模はずっと小さくて、集まったのは私も含めて、男子5人女子3人の計8人。みんな、空くんと私と同じクラスだった。小枝ちゃんは残念ながら、仕事が忙しそうで来れなかったけれど。

私の勤務地に近いみなとみらいのビルの中のイタリア料理のお店。窓側にリザーブされた席からはコスモクロックのゴンドラが、ピカピカ光りながら回ってるのが見えた。

 

お刺身と海藻のサラダやなんこつの唐揚げ、スチーム野菜といったお料理が次々に運ばれてきた。

「あ、じゃあサラダ分けるね~。嫌いな人いる?」

小池さんて気の付く女の子がお皿とトングを手にして、みんなに聞く。

「あ、俺のに水菜入れないで、小池さん」

なんて発言を谷くんて男の子がして、テーブル全体から、くすくす笑いが漏れる。「小学生かよ」みたいな。

 

(和気藹々としてて和むなあ…)

取り分けて貰ったサラダに箸をつけようとしたら、隣のむねたに、肩を軽くぶつけられた。

 

「あれから、どうなんだよ、ミュウ」

「え?」

「王子のこと、なんかわかったのか? 事故の現場行くとか言ってただろ?」

「あ…」

むねたに聞かれて、私は言葉を詰まらせた。

 

知りたいことは謎のまま、知りたくなかったことを知ってしまった…。自然に、風花さんの顔が浮かぶ。

 

空くんの当時の彼女で、遺体の第一発見者。

空くんが悩んでたこととか、考えてたこと。私が、慎重になっていれば、聞き出せたかもしれない。

大地からも、あの雨の日以来、何も音沙汰がない。一度だけ、元気?って、LINEのスタンプ送ってみたけれど、既読のままレスはなかった。

 

(私の暴走ぶりに、大地も愛想つかしたかな…)

あはは、と漏れちゃうのは乾いた笑い。自己嫌悪。テンションだだ下がりだったから、今日の飲み会はちょっとありがたかった。

ひとりでいると、どうしても大地からの連絡待っちゃうから。

 

「ミュウ? あいつとなんか、あったのか?」

黙りこくった私に、心配そうにむねたが首を傾げる。

 

何か、って言われて、反射的に大地にされたキスが蘇る。

「な、何にもないよっ」

「そっかぁ? お前、カオ、真っ赤だぞ? 酔うには早くねーか?」

「うっさいなあ。いつ、酔っぱらおうと、私の勝手でしょ?」

強気に言い返しながら、私はグラスのお酒を一気に煽る。

動揺と赤面の理由づけになるなら、何でも良かった。

 

「相変わらず、痴話喧嘩ばっかりだなそこ」

私の真向かいに座ってる小林くんが、そんな私とむねたの会話の様子を茶化す。

彼は、野球部でバッテリー組んでた。

 

「さっき、王子とか言ってなかった? 海野」

水菜のきらいな谷くんまで、こっちに話を振ってきた。耳ざとい。私のことなんてほうっておいて、サラダ食べてればいいのに。

「ん? ああ ミュウさあ、王子の死んだ原因調べてんだって。王子の弟と」

黙っててほしかったのに、むねたがあっさりとばらしちゃう。

 

 

「ちょ、ばか、何言ってんのよ」

「何でだよ、情報収集なら、いろんな奴らからした方がいいんだから、こいつらにも協力してもらえよ」

 

私が睨み付けて抗議しても、むねたは何処吹く風だ。

確かに、むねたの言い分は、一理も二里もあるけど。

 

「あー、お前がこの間、何年か前に拝島に会ったことないか、聞いてきたのって、それで?」

お肉屋さんのおばちゃんが、空くんがこの街に戻ってきたことを聞いてきた時のことだ、むねた、ホントにあっちこっちに連絡してくれてたんだ。

「すげーな、海野。アニメやドラマの素人探偵みて~」

谷くんが興奮気味に言ってくる。

 

「や、あれはフィクションだから。実際はあんな簡単にいかないよ」

こっちが不審に思ったことでも、よっぽど確実な証拠でもない限り警察は動いてくれないし、空くんに関わりのあった人たちだって、心を開いてくれない。有益な情報なんて、得られもしない。

 

わかりたいと思った真相は、足を深くつっこめば突っ込むほど、謎が増えていくばっかり。

 

「拝島かあ…俺、あいつ苦手だったな」

 

ぼそっと呟いたのは、ここまでほとんど口を開いてなかった松野くんだ。

さっきまでの和気藹々とした空気が一変してしまう。