Fake①


 

同窓会の次の週末、私は桜木町の駅前にいた。灰色がかった空の下、駅前の広場は、かなり人でごった返してる。

待ち合わせの店の前で、ちらっと時計を見た、待ち合わせまではあと、3分。

本当に来るのかな? 『拝島空』を名乗ってる人──

凄く落ち着かない。ドキドキする。

こんな気持ちは、就職試験の時の最終面接以来かも。

 

指定されたビルの前で、ぼーっと突っ立ってるのがイヤになって、スマホを見た。

待ち人からのメッセージはないけど、むねたからラインが入ってた。

──もう、『拝島空』に会ったのか?

うざっ。

空くんのアカウントがSNSに残ってること、むねたに言わなきゃ良かった。

彼に会ってみる。

再会以来、頻繁に電話してくるむねたに言ったら、むねたは凄まじい勢いで反対してきた。

危険だとか、無謀過ぎるとか、そもそもいい加減前を見ろ、とか。

もちろん、私はむねたの言い分なんて、聞く気はなくて、最後はほぼケンカ状態になって、通話を切った。

「むねたには、関係ないでしょっ? もし、このまま私が行方不明にでもなったら、ワイドショーに空くんの名前出せばいいじゃん。

五年前に死んだ友達に会う、って言ってました、って」

ここまで言い切った私を、それでも心配して、わざわざライン寄越すんだから、むねたは本当イイ奴だと思う。

どうしてむねたが、私が空くん空くん言うのを嫌がるのかも、気づいてる。

けどさ。

私の中で、空くんへの気持ちにケリつけないと、私はこのままずっと、空くんを、引きずっちゃう気がするんだ…。

むねたには悪いけど、GPS機能をオフにして、スマホをしまう。

多分だけど、大丈夫。

これから来る人の心当たりも、ちゃんと私にはあった。

 

 

SNSサイトの更新通知が届いて、私はそれをタップしてみる。

『拝島空』さんの画像が、新しくなってる。

――今日はこれから、桜木町で、人と会いま~す。

短いコメントと一緒にアップされた根岸線を背景に撮られた写真に、ブルーのコート姿の人が映ってる。

やっぱり空くんに似てる…。今日はこんな格好なんだ…と思って辺りを見回したら、ちょうど同じ色のコートを着た人が、私のあたりをきょろきょろしながら、近づいてくる。

まさに、スマホから抜け出したみたいに、同じ格好、同じ顔。

 

自然に、気持ちが高ぶっていく。

 

「あの」

上ずった声を掛けると、向こうもこっちを気にしてたようで、すぐにこっちに近づいてきた。

真ん前に立たれると、見上げなきゃいけないくらい、背が高い。シャープな細めの眉に、切れ長の目元。きゅっと引き締まった口元。

 

あー、やっぱり似てるな。これが、空くんで、夢にまで見た空くんとの再会だったら、どんなにかよかっただろう…。

 

落ちていく気持ちを必死に隠しながら、私は彼に声を掛けた。

 

「拝島大地さん…ですよね」

 

 

 

 

――まだ…うさぎ、飼ってる?

――いや、今はもう飼ってないよ

――わたがし、どうなったの?

――死んじゃった

――そうなんだ。くろすけみたいに突然だった?

――くろすけ、って誰だっけ

――忘れちゃった? 学校にいたうさぎ

――だって、もう。10年以上も前じゃん(笑)

 

この1週間の間に、交わしたメッセージの中で、あれ?って思うことがいくつもあった。その度に、深まっていく確信。

 

(この人は、空くんじゃない…)

空くんだったら、覚えてて、当然なことを覚えてない…。

じゃあ、誰なんだろうと考えて、私は空くんに弟がいたことを思い出していた。

 

弟だったら、例えば、空くんが生前使ってたスマホとかを使って、本人になりすまして、SNSの更新することだって、難しくないはず…。あの時はちびっちゃかったけど、彼だって10年たって、成長してるんだし。

 

 

私なりの推測の結果をズバリと直球で尋ねると、ブルーのコートの『拝島空』さんは、眉をあげてから、にやっと小生意気な顔をして笑う。その笑顔は、空くんとは違う。

 

「なんだよ、ばれてたの?」