Fake②


 

その言い方には、まるで罪悪感とかない。いたずらがバレて舌出してる子どもみたいだった。

 

「…やっぱりそうなんだ…」

推理が当たってたのに、ちっとも嬉しくなかった。空くんはやっぱりいない。もう、この世の何処にも。それを改めて確認しただけだったから。

 

 

駅前の大きなエスカレーターに弟くんは乗り込む。私も、一段開けて、そのあとを追った。下の私に、弟くんは過去の話を振ってきた。

 

「俺もあんたのこと、思い出してたよ。海野眞羽さん――一度、俺たち会ってるよね?」

「…覚えてるの?」

まだ小さかった彼の姿を、私もまた思い出していた。空くんの家に行った日、「兄ちゃんになんか用?」って食ってかかってきた、小生意気な男の子。

身長なんて、私より遥かに小さかったのに、いつの間にか追い越されてて、ムカつく。しかも…。

 

しかも、空くんにそっくりなのだ。悔しいくらい。

 

「兄ちゃんが女の子、家にあげたのは、あれが最初だったんだよね。いっつも変な女は俺が追い返してたから」

ぼそっと大地くんがもらした情報に、ちょっとにやけちゃう。

「それに、変な名前だったし」

あーでも、やっぱりムカつく。背ぇ伸びて、空くんのそっくりのイケメンになってても、中身は小生意気な小学生男子そのものだし。

 

「悪かったわね」

「メッセージもらってから、小学校の卒業文集開いて、あーこいつこいつ、って思い出したよ。意外と7歳の記憶力ってすげーのな」

「…あっそ」

どうでもいいし。あんたの記憶力なんて。

 

「けど、まだしつこく兄ちゃん追っかけてたとは思わなかった」

「失礼ねっ! 違うわよ。私は空くんが――」

空くんの名前を出すと、弟くんは声を出さずに口角だけをあげて笑う。困ったような、その笑い方――空くんとおんなじ。

 

やだな。10年も経ってるのに、空くんの記憶はいまだにこんなに鮮明なんだ。ちっとも前に進めてない。理彩にもむねたにも言われた言葉が胸の中に広がっていく。

 

「にいちゃんが死んだって、知ってるんだろ?」

 

弟くんは私が途中で止めた言葉を引き取って、そう聞いてきた。

 

 

登り切ったエスカレーターの先には、高層のビルに繋がる動く歩道がある。その歩道に乗っかって、弟くんと私は話の続きを再開する。

 

「いつ知った?」

「同窓会で聞いたの。突然の事故だったんだってね。何も知らなくて…お悔み申し上げます。けど、亡くなったお兄ちゃんになりすますなんて、良くないよ。たとえネットの世界でも」

「海野さんさあ、最後ににいちゃんに会ったのいつ?」

「何よ、それ今関係ないじゃない」

「いいから教えて」

弟くんの真剣な声に私は正直に答えた。

「10年前…の春休みが最後よ。向こうに空くんが遊びに来てくれたの」

「はっ、友だち遊ぶ、って言ってたのにあんたと会ってたんだ」

そうだったんだ。空くんの裏事情なんて知らなかった。

「それからは会ってない?」

「うん。手紙も来なくなっちゃったし」

「手紙もやりとりしてたの? レトロだなあ」

「しょうがないでしょ、スマホとかない時代だもん。何でそんなこと知りたがるの?」

さっきの質問にも答えてもらってない。弟くんは何がしたいのか、何が知りたいのか。全く分からなくて、私は尋ねる。けど、また話の腰は折られてしまった。

 

「さすが、のこのこ出てくるだけあって、あんたも相当好奇心旺盛だよな」

「じゃあ、もういい。帰る」

ちょうど、動く歩道の終点についたところで、私は踵を返す。

 

『拝島空』は弟くんが作ってた偽の空くんだってわかっただけで、私の目的は十分に達成出来てる。

 

けど。

反対側のベルトに乗ろうとした私の腕を引いて、弟くんは私の動きを妨げる。

 

「待ってよ」

「ちょ…っ」

やめてよ、離して。

喉まで出かかってた文句は、耳元で囁かれた弟くんの言葉で、全部消えてった。

 

「兄ちゃんは事故なんかじゃない、自殺したんじゃないか、って俺は疑ってるんだ」

 

 

自殺…?

 

(…嘘だよね、空くん…)