Fake⑤


 

いろいろなことが明らかになると、期待させたその記事は、却って私を混乱に陥れた。

 

これが本当なら、目撃者もなく、空くんが立ち入り禁止区域に夜入り込んだわけもわからない。

 

 

写真は遺体の発見現場なのだろう。崖下を上から見下ろす形で撮られている。空くんの亡骸はなかったけれど、人を象る白線が引かれていた。生々しい写真…。けど、じっと目を凝らしてみていたら、大地が不思議そうに聞いてきた。

 

 

「やじゃないの?」

「…見せて、って言ったの私なのに、『きゃっ』とかいうの、いやじゃない」

私の言い分で納得したらしい。さらに詳しい話を聞かせてくれた。

 

「司法解剖とか、現場の状況とか調べては貰ったけど。やっぱり不運な事故で片づけられてオシマイ」

「そんな…だって。何で空くん、こんな場所にひとりで入って行ったの? しかも夜中に」

 

写真で見る限りだって、そこは雑木の生い茂った山道。というか、道なき道だ。まして、夜なら。よく現場を知ってる地元の人だって、ためらうような場所だって、写真からだって、類推できる。

 

「そこは謎のまま。この日、夜中に大雨が降ってさ、この辺りの村が冠水して、被害も大きくて、警察もそっちの救護や処理に追われて、どう考えても、おざなりにされた、ってのもあって、俺も全然納得いってない。けど、病院で司法解剖された次の日には、俺たちは兄ちゃんの亡骸と一緒に、こっちに戻ってきた。兄ちゃんが事故で死んだ――その事実以外、何もわかんないまま」

空くんの死の詳細を、大地はなるべく感情をこめずに語ってる――そう、見えた。どうしてかはわかる。そうしないと、きっと怒りで我を忘れそうになるから。

 

「遺品の中のスマホは、データがすべてなくなってた。多分、落下した衝撃で破壊されてしまったんだろう、って」

「…そういうの、警察で復元したりするんじゃないの?」

よくドラマとかでもやってるシーンを思い出して、言ってみる。けど、大地は諦めたような顔で首を横に振った。

 

「事件性があるって判断されれば、交友関係洗い出しでそういうこともやってくれてるんだろうけど、もみ合った形跡もなし、遺書もなし、目撃者なし…じゃ、何もしてくれなかったよ?」

「……」

 

そんなもの、なんだ。人ひとりの死って、そんなにあっけなく扱われてしまうものなんだ。

 

 

いつまでもいつまでも空くんが忘れられない私。

空くんの存在を、なかったことにしてしまうくらい、悲しかったお母さん。

大地だって…。

 

ねえ、空くん。いなくなっちゃった後も、あなたの存在はこんなにも大きいんだね。

 

 

「哀しいけど、不運な事故――それで終わらせるべきだったんだ。でも、この間、ふと兄ちゃんの荷物を整理してたら、ノートにこんな書き込みを俺は見つけた」

大地は箱の底から、一冊のノートを取り出す。よく文具店でも見かけるキャンパスノート。表紙に空くんの字で、名前と数ⅡBと書かれてた。

大地がこっちに手渡すから、私はそれをぱらぱらとめくる。ノートは半分くらい使われて白紙になってる。

中途半端なその使い方が、途切れてしまった彼の生を端的に示してるみたいで、物悲しい。けど、大地はそんな感傷のために、これを出したわけじゃないはず。私は1ページ1ページ丹念に見ていった。書き込みが途切れる少し前、6月20日と21日の間に異様な1ページが挟まってる。

 

 

 

 

 

助けて

 

 

 

そこには空くんの文字でそう書いてあった。