Keep out 1


 

紫やピンクのスターチスで作ってもらった花束を添え、まだ新しいお墓に手を合わせた。お線香の煙が鼻先を掠める。

目を閉じて、ここに眠ってる空くんにいっぱい話しかけた。

今の自分のこととか、これまで空くんの死を知らなかったことへのお詫びとか。空くんは、自分と同じ名前の場所から、「うんうん」て柔らかく微笑みながら、聞いていてくれる気がした。

 

「いつまで話してんの」

突如、声を掛けられて、私は即座に目を開けて、後ろを振り返る。

腕組んで、うんざりといった顔で、立っていたのは大地だった。

 

「な、なによ、いいでしょ。話したいこと、たくさんあるんだもん」

「長すぎ。線香も半分くらいになっちゃったし」

見ると、確かに灰の白い部分が多くはなっている。でも。

 

「お、大げさすぎよ、あんた」

お参りしてたのだって、絶対5分足らずだ。外野から文句言われるような時間じゃない。

「寝てるのかと思ったぜ」

「な、わけないでしょ。会えなかった分、いっぱい話したいこと溜まってたの」

「10年も会ってなかった女に、いきなりいろいろ語られても、兄ちゃんにしてみりゃめーわくだろうな」

 

…か、可愛くない。全然可愛くない。何なの、こいつ。

 

「空くんはそんなひどいこと、言わない」

「そっかあ? あんたの兄ちゃん像って、150パーセントくらい美化されてっからな」

 

大地は白い歯見せながら、にやにやしてから、兄の墓石に手を掛ける。

 

「…ま、ホントに兄貴がここに出てくるっつーなら、30分とか1時間とか言わず、俺なら一晩でも手合わせてっけどさ」

「……」

 

小生意気で、可愛くない。とは思うけれど、大地を嫌な奴だと憎みきれない、理由のひとつ――空くんのことに関しては、大地はすごく誠実だ。

 

今だって、空くんの家を出る際、私が何気なく「空くんのお墓ってないの? お墓参りしたいな」と言ったら、電車で20分くらい離れたこのお寺に連れてきてくれた。

本当にこんなとこに墓地やお寺なんかあるのかと思うほど、住宅街の真ん中で、寺域の奥には私鉄の線路が走ってる。

そんなお寺の片隅に、空くんは今、眠ってる。

 

お母さんが空くんの死どころか、存在自体を否定してしまっているから、家族でのお参りなんかはほとんどしたことがない。だから、荒れ放題だぞ、と大地は言っていたけれど、いざお墓の前に立つと、墓石は綺麗だったし、周りの敷石も枯れ葉などは取り除かれていた。…きっと、大地はちょくちょく来てるんだろう。

そう思うと、さっきの憎まれ口もあんまり憎めない。

 

 

「また」の約束をして、大地と別れた。初恋の人の弟と、交わす約束。次は空くんの事故現場に行く予定。

何があるのかなんてわからない…けど、何かしないではいられない。

 

私と大地は似た者同士なんだ、きっと。

 

 

家路に向かう電車の中で、スマホをの見ると、LINEの未読メッセージがたくさんたまってた。ゲームの通知や公式のお知らせ以外のメッセージは、ほとんど同じアカウントから送られてる…むねただ。

 

――ミュウ、『拝島空』と会えたのか?

――お前、ケータイ見る暇もねえのかよ

――おい、もう4時間くらい経ってるけど、生きてっか?

 

何度か電話も掛かってきてたらしい。

(もう、何なのよ、あいつ。ほんとうざい)

怒りのスタンプを探していたら、またむねたからメッセージが来た。

――やっと、既読ついた。ミュウだよな? 心配させんなよ

 

そっちが勝手に心配してただけじゃん。

そうは思うけど、これ以上むねたをやきもきさせてもしょうがないから、レスした。

 

――いろいろ取り込んでて、ケータイ開く余裕なかった。ごめん。「拝島空」の正体は、空くんの弟だったよ。むねたが心配するようなこと、何もないから。

 

そうしたら、またすぐにむねたからレス。

 

――あー、そういえば、あいつ小生意気そうな弟いたな。納得。

 

良かった、納得してくれた。スマホをしまいかけたら、またむねたからレスが来た。

 

――おまえ、今何処?

 

 

最寄りの駅まで帰ってきたら、人込みから頭ひとつ抜けた巨漢が、手を振ってくる。帰りの電車の中で、電車の通貨したばかりの駅名を教えたから、もしや…と思ったけど、やっぱりいた。そんなに暇なのか、あいつ。

私はすぐにむねたの方に駆け寄った。

 

「…お迎えなんていらないんだけど」

「いや、お前の無事な顔見るまでは、落ち着かなかったから」

私のそっけない態度とは真逆に、むねたはにこにこ笑って言う。

(…悪い奴じゃないんだけどさあ…)

ふう、と私はむねたに気づかれないように溜息をついた。