Keep Out2


 

結局、むねたと並んで近道の商店街を抜ける。あちこちに乱立して出来てる大型ショッピングセンターのせいで、この辺りもシャッターが閉まりっぱなしの店が増えて、寂しくなったけど、残ってるお店の人は、店頭で呼び込み必死にしてる。

 

「ずいぶん、遅かったんだな」

むねたが私に言う。責めてる口調じゃなく、純粋に疑問に思ってる、そんな言い方で。

「……」

 

なんて、言おうか、私は迷った。何処まで、むねたに言うべきだろう。空くんの死んだ理由を知りたい。調べたい。

そんなことを言ったら、むねたはまた、驚いてうっとうしいくらいに心配してくるのかな。

答えあぐねていたときだった。

 

「あら、そうちゃん?」

お肉屋さんのショーケース越しに、枯れた声で、中にいたおばちゃんがむねたを呼んだ。

 

「あーっ、おばちゃん。久しぶり。元気だった?」

すぐに振り返ったむねたは、大げさに喜ぶ。肉屋のおばちゃんとも知り合いなのか。

何度か買い物に来たことはあるけれど、顔なじみってほどでもない私は、むねたの横で控えめに頭を下げた。

 

「あら、やだよ。こんなに大きくなって、お嫁さんまで連れてきちゃって」

 

おばちゃん特有の遠慮のない声と会話で、おばちゃんはとんでもないことを言う。

 

「ちょ…やめてよ。違う違う。彼女は小学校、中学校の同級生」

「あら、そうなの? この子ね~、部活帰りに毎日うちのコロッケ買い食いしてて。時には、お金持ってない後輩にも奢ってあげてたりして。優しい子なのよ~?」

 

 

いや、そんな。商店街のおばちゃんに力説されなくても、むねたの懐の大きさと世話焼きなとこは知ってるけど。今も、まさに世話焼かれまくってたし。

 

「そうですね…」

 

と私はあいまいに笑いながら、その場を去ろうとしたのに。

 

「久しぶりにおばちゃんのコロッケ、食べていきなさい、そうちゃん。今、揚げてあげるから。おばちゃんのおごり」

「い、いや、いいよ」

「遠慮しなくていいわよお。久しぶりなんだから。ちょっと待ってて」

とおばちゃんが奥に引っ込んで、すぐにじゅ~と油の音がし始める。

 

「…あはは、なんでかコロッケ食うことになっちまった。ミュウ、お前も食うだろ?」

「うん…」

 

本当に何でこんなことになったんだろう。店の前にあるベンチに腰かけて、私はむねたとコロッケを食べてる。

手のひらサイズの白い紙袋に入れられたコロッケは、ソースもかかってなくて、中味もじゃがいもとひき肉と玉ねぎのシンプルなもの。だけど、懐かしい味だった。

 

「なあ」

コロッケをあっという間に食べ終えちゃって、むねたが私に話しかけてくる。早っ。猫舌の私は、まだ三分の一くらいをふうふう言いながら、食べてるのに。

「何?」

「…拝島弟と何してたんだ?」

「え?」

「いや、遅かったから…。そもそも、あいつ何のために、拝島空のアカウントでなんか、SNSやってたんだよ」

 

いつも大雑把な物の考え方しかしないのに、珍しくむねたが厳しいところをついてくる。

 

「え」

「いや、だってさ。フツ―に意味わかんなくね?」

「…う、うん。なんか、お兄ちゃんの知り合いに連絡つけば…って思ったみたいだけど」

「それにしたって。他の方法ありそう。ばかだな、そいつ」

「……」

 

油で汚れた指先をぺろっと舐めながら、むねたは大地のアイデアを一刀両断にする。

いや、まあ、効果的とはいいがたいかもだけど…細い細い電波の網に、頼ろうとした大地の気持ちは…何となくわかる。

 

私がまだ食べてるのに、むねたは立ち上がって、肉屋のおばちゃんに声を掛ける。

 

「うまかったーっ、ごちそうさん。やっぱ、金払ってくよ。あいつのと二個分」

「…わ、私、自分のは自分で…」

「いいよお。久しぶりに来てくれたんだからさ。それより、また顔出してよ」

「うん…まあ大学の下宿生活やめて、こっち戻ってきたから、また来るけど。あ、じゃあ。残ってるコロッケ、全部ちょうだい。土産に買ってくわ」

「悪いねえ、そうちゃん。毎度あり」

 

商売人の茶目っ気たっぷりに、おばちゃんは笑って、白い紙に残りのコロッケを包む。

むねたとおばちゃんがそんなやりとりをしてる間も、店前のベンチで、もぐもぐとまだ食べてる私。

まだ立ち去らないとみてか、おばちゃんはこんな昔話をしてきた。

 

「そういえばさ。あんたと同じ学校だった拝島くんとこの兄弟も、よくそこのベンチに座って食べてたねえ」

「えっ?」

残りを口に放り込んでから、私は立ち上がって、おばちゃんにその話を詳しく聞こうとする。

 

「…は、拝島空くん知ってるんですか?」

おばちゃんは私の剣幕にのけぞりながらも、答えてくれた。

「ああ。よく買いに来てたんだよ。面倒見のいいお兄ちゃんでね。夕飯の買い物だろうに、必ず弟が食べたがるから、たぶん、自分の小遣いでだろうねえ…別の財布から、小銭出して、コロッケ買って、そこのベンチで弟に食わせてやってたんだよ」

うーわー、空くんらしい。そっか、空くんちはお父さんもお母さんも働いてたから…そんな風に大地とふたりだけで買い物とかも来てたんだ。

なんか、大地がいまだに空くんの死に拘っちゃうのも無理ないのかも。

 

「けど、あいつ引っ越したじゃん、おばちゃん」

「ああ、そうなんだよねえ。だから、買いに来てくれなくなって寂しかったよ。けど、いつだったか1回、来てくれたんだよ、お兄ちゃんの方が」

「――」

 

むねたとおばちゃんの何気ない会話に、私は神経を尖らせ、記憶をフル回転させる。

空くんが、この街に来てた?

私と会った時かな。いや違う。その時はこのお店には寄らずに、空くんはJRに接続する電車に乗って帰っちゃってた。

 

 

「お、おばさん、それいつのことですか?」