Keep out4


 

見たことないくらい、満天の空の下、私は空くんと手を繋いで歩いている。

不思議なことに、空くんは小学生の時の空くんで、私は今のビジュアルなのだ。見た目は小学生とOL.。すっごい不均衡。

だからなのか、夢の中で、私はこれが夢だって、認識してる。

 

だけど、それでも嬉しくて、何処までも続く星空の下の道を、歩いていたら、急に空くんが立ち止まった。

「…俺、もう行かないと…」

唐突なお別れの言葉が納得できなくて、離されかけた空くんの右手をぎゅっとつかみ直した。

「…行かないで、空くん」

「ごめんね、眞羽」

困ったように空くんは笑って、見た目オトナで年上の私を優しく窘める。

「やだよおぉ」

「…ごめんね」

空くんがもう一度言うと、しっかりとつかんでた空くんの手のぬくもりが、ふっと消えて、目の前にいた空くんも、ぱっといなくなった。

 

「空くん空くん」

私は、右左と首をせわしなく動かして空くんを探す。けど、何処にも、もう空くんはいない。

 

 

「空くんっ!」

 

叫んだ自分の声で、目が覚めた。

起き上がると、いつもの自分の部屋だ。

(夢でもいいから、もう少し空くんといたかったな)

 

未練がましい自分に、から笑いをして、私はのろのろとベッドから起き出す。

もしかしたら、空くんは私に何かを訴えたかったのかな。…今日は、大地と空くんが亡くなった場所に行く予定だった。

 

東京駅で待ち合わせて、特急電車に乗り込んだ。日曜の朝イチの新幹線。席はほぼいっぱいで、網棚の上にも、旅行用のバッグやリュックがたくさんのっかってる。車両のほぼ真ん中の位置で、チケットを確認しながら、大地は立ち止まった。

 

「眞羽、どっち座る?」

「へ?」

「窓側? 通路側?」

「あ~、じゃあ…通路側」

「OK」

 

大地の隣に私は座る…当たり前の会話だったり行動かもしれないけど、なんか、気恥ずかしい。よく考えたら、2回しか会ってない人と、遠出するのも、初めての経験だ。

 

「…昨日寝れた?」

大地に聞かれて、今朝がたの空くんの夢を思い出していた。

「…ううん、あんまり」

「眞羽って遠足の前とか、寝れなかった人?」

「…そうよ、悪い」

明日晴れるかな。お弁当の中味何かな。誰と食べようかな。いろんな想像してると、胸がドキドキしてきちゃって、早く寝なきゃ寝なきゃ…って焦れば焦るほど、目はどんどん冴えていっちゃう。そういえば、昨日の夜も、そんな興奮を抑えながら眠ったら、空くんの夢を見たんだった…。

 

「いや…俺もそう」

 

いつもみたいにからかってくるのかと思ったら、大地は私の台詞に同調して、ひとつ大きくあくびをした。

 

「別に楽しみってわけじゃないんだよ、当たり前だけど」

…そう。だって、私たちは空くんが命を落とした場所に行くんだもん。遠足とは違う。

 

「けど、興奮しちゃってるみたい。何でかな。ワクワクやドキドキじゃないんだけど、じっとしてられない感じ…うまく言えないんだけど」

「うん、わかる」

 

そう、じっとしていられない。何かがわかるなんて期待してるわけじゃない。けど、何もしないではいられない。

むねたと帰ったあとで、私は大地にメールしてみたのだ。

 

――空くんの事故現場、行ってみたい。

 

LINEで送ったメッセージに、大地は直に電話してきた。

「眞羽、マジで言ってる?」

「うん…ダメかな」

「いや、ダメとかじゃなくて…変わってるよね、眞羽って」

 

変わってる。そうかもしれない。

もう会えない人なんだから、忘れた方がいい。理彩もむねたも、みんなそう言う。

けど、私は逆に、空くんの痕跡を求め続けてる。全ての謎をクリアしないと、先に進めないゲームでもやってるみたいに。

 

あきれたように言いつつも、大地はスケジュールを調整してくれて、次の週――つまり、今日、長野に向かうことになった。

 

列車は静かに走り出す。窓の景色がビル群から、次第に低い屋根の建物に変わり、そして田園風景になっていく。田には水が張られ、苗を待っているみたいに見えた。次の週末にでも、田植えが始まれば、青々とした光景になるのだろう。

「俺、朝はダメなんだ」と最初に大地は言い訳して、無言のまま、車窓の景色を眺めてる。

眠っているわけではないけれど、ぼんやりとしたまんまの横顔に、私は話しかけた。

 

「そういえばね」

「ん?」

「…この間、たまたま聞いちゃったんだけど、空くん…、高校生のときにも一度、引っ越す前の街に戻ってきてるんだね」

「え?」

知らなかったのだろう、大地の眠そうだった瞳が、急に大きく見開かれた。

 

「誰から聞いたの?」

「〇〇駅の商店街のお肉屋さん、あるじゃない。たまたまこの間、そこに寄った時に、昔の話になって。大地と空くんもよく、通ってたんでしょ?」

 

私が聞くと、大地は懐かしそうな顔になった。

 

「うん。あそこのコロッケ好きだったよ」

「大地と空くんのことをお肉屋さんのおばちゃんも覚えてくれてて。お兄ちゃんの方が、高校生の時に、うちの店に買いにきてくれたのよ、って情報くれたの」

「…そんなことあったんだ」

 

大地は記憶をたどるような遠い目をする。けれど、手繰り寄せた糸に、これと言った記憶は残っていなかったらしい。「そんなこと全然知らなかった」と諦めたように言う。

 

「そのおばちゃんが言うには、誰かに会いに、こっちに戻ってきた、って空くん言ってたらしいの」

「けど、兄ちゃん、引っ越したあとでも、連絡取ってたのなんて、眞羽くらいだったぜ?」

 

大地の方からの情報はやっぱり得られなかった。予想はついてたけど、やっぱり少し気持ちが沈み込む。

 

「誰に会ってたのか、今、むねたがいろんな人に聞いてくれてるんだけど」

「むねたって?」

 

大地は意外なとこに食いついてきた。

 

「え?」

「むねたって誰。変な名前」

「あ、むねたってのはニックネームで…」

 

大地は知らなかったっけ。私は、武田宗太って幼馴染について、簡略に説明する。ガタイがでかくて、態度もデカい。けど、人間の器もおっきいお節介で友好的な奴だって。

 

「兄ちゃんの同級生でもあったんだ」

「うん。だから知ってたと思う。でも、むねたと空くんだと、あんまり接点なかったから、家で名前出たりはしなかったかもね」

「ふーん」

 

あれ以来、むねたからは連絡来ない。来ないってことは、何も進展がない、ってことなんだろう…空くんが、あの日、どうしてあの街に戻ってきたのか、誰に会いに行っていたのか…。

 

わからないままなのかな。