Keep out6


 

保養所の裏手から、外に出て、鬱蒼とした木々に覆われた山道を下っていく。道と言っても、人が踏み固めて、木も草も生えてない箇所があるだけで、段になるような木も石段もない。

そんな道を10分くらい行くと、少し広い山道に出て、その先にはロープが張り巡らされていた。

このロープの先は本来ならば、KEEP OUT――立ち入り禁止区域らしい。

 

「気をつけてな、大地くん、海野さん」

注意を投げかけて、橋本さんが私たちを誘導する。脇の木々に手をつきながら、道なき道を進む。

頭上に伸びた木々の枝が空からの光を遮り、真昼間でも暗く陰った道を進めば進むほど、疑問と違和感は私の中で膨らんでいく。

(どうして、空くんはこんなところに…)

 

意識が逸れて、足元への注意が散漫になってた――

 

「きゃっ」

段差に気づかず、踏み出した右足が滑って、バランスを崩す。

「眞羽っ」

こけそうになった私の腰に腕が伸びてきて、支えられる。

「……」

大地の腕だってわかってるのに、「眞羽」って呼んだ声が、空くんの声に聞こえた。転びそうになった瞬間よりも、鼓動が速くなって、体が熱い。

 

まるで、私を支えてくれてるのが、大人になった空くんなんじゃないか、って錯覚しそうになる…。

 

「大丈夫かよ、こんなところでお前まで、兄ちゃんの二の舞なんてやめてくれよ」

乱暴だけど、私を心配してくれる大地の声で、はっと我に返った。

 

「わ、わかってるわよ。ちょっと足滑らせただけじゃん」

焦りからか、気まずさからか、お礼の言葉より、先に憎まれ口が出てしまう。

「もう平気だから、離してよ」

 

大地の腕に抱かれてる自分が恥ずかしくて、そっけなく言う。

 

「…あ、ああ」

 

私が意識してしまったせいか、大地までぎこちなく返事をして、すっと私の身体に巻き付けていた腕を離す。

 

(…何やってんだろ、私)

 

大地にとっては咄嗟の行動で、何も意味なんかないのに。意識しちゃうのは、きっと今日空くんの夢なんか見たせいかもしれない。

 

空くんが大きくなって、私の傍にいてくれる…ありもしない想像が、まだ消えない。

 

 

微妙な空気の中で、さらに橋本さんは奥に進んでいく。少しすると、何処からか水音が聞こえてきた。木々の間から、明るい光が差し込んできて、私は歩調を早める。けれど、すぐに行き止まりになってしまって、眼下に広がった風景に息を呑んだ。

 

足元は崖になっていて、もう一歩も前に進めない。崖と崖の間、5メートルほど下に清流が流れ、さっきからしていた水音はこの川だということに気づく。

 

岩壁も渓谷も、一切人の手が加えられていない。自然の美しさと――同時に厳しさを思い知らされる。

 

橋本さんが、川岸の砂利を指さした。

 

「あの夜は、水がもっと多くて急だったけれど…あの少年は、あの辺りに倒れていたんだ」

 

写真でしか知らない高校生の空くんのビジュアルが、ふっとあの川岸に浮かんだ。

 

(こんな…ところで…)

 

彼の最期の場所を目の当たりにすると、それまでとは違う言いようのない寂しさと、そして疑問が沸いてきた。

 

「どういう経緯でみつかったんですか?」

 

震える声で、橋本さんに尋ねた。橋本さんの方は、何度も同じ質問をされて、答え慣れてるのか、私の質問にすぐに的確に答えてくれた。

 

「朝になって、誰かが部員がひとりいないことに気が付いたんだ。それで、宿舎の中、回り、あちこち手分けして探した。だんだん捜索エリアは広がっていって、ついには立ち入り禁止区域まで。消灯前の点呼の際にはいたことはわかっていたから、夜中に土地勘もない都会の子が、こんな山奥に入らないだろうと、俺は思ってたんだが…、当てが外れた」

 

変わり果てた空くんを見つけたのは、橋本さんとマネージャーの女の子だったらしいい。