Keep out8


 

空くんともうひとりの男の子に挟まれて、頭ひとつちっちゃなその女の子は、髪をツインテールにくくって、肩に流してる。目がなくなる程、崩した笑顔が可愛らしい子だ。

やだな、今更嫉妬したってしょうがないのに、お腹の辺りがもやもやっとする。

でも今、そんなマイナスの感情剥き出しにしたってしょうがない。黒ずんだ感情に支配される前に、意識を切り替える。

 

「じゃ、この人は?」

 

と、今度は空くんの反対側に立ってた男の子を指さした。

2個目の質問には、大地は首を傾げる。知らないみたい。

「彼は、赤城くんじゃないかな」

大地に代わって、私の質問に答えてくれたのは、橋本さんだった。

「スプリンターの選手で、エース的存在だったよ」

この人の顔はさっきから、写真で見た。あっちにもこっちにも映ってる。3枚、それも全部カメラを自分に向けられたから、渋々映っているような空くんとは違って、ごく当たり前に自然に各写真に溶け込んでる。

部内で空くんが浮き上がってるとすれば、この人は浸透してる。部長とエース、ふたりの肩書の違いが、写真にも表れてる…そう、感じさせる対称さだった。

だけど写真を見ても、橋本さんの話を聞いていても、どれも、空くんに死を覚悟させるような孤独があったようには思えない。

 

「この写真、お借りしてもいいですか?」

私は橋本さんにお願いする。

橋本さんは快諾してくれて、「データがあるから、持っていっていいですよ」と私にあっさりくれた。

 

橋本さんにお礼を言って、私と大地は宿舎を後にした。

3時間に一本しか来ないバスは、私たちが乗ってきた時と同じ運転手さんだった。

ぐるぐると山道をくだっていく。大地は疲れたのか、前の席で首をこっくりこっくりさせてる。

ちらっと車窓に渓流が映り込む。空くんの最後の場所とつながってるかもしれない。小さく合掌して、私は空くんに別れを告げた。

 

 

「なあ、このあとどうするんだ?」

帰りの電車の中で、大地が私に尋ねる。

「ん。とりあえず、近藤さんと赤城くん? 会ってみたいな、って思って。今、何してるんだろうね」

「あー、どうだろうな」

空くんと同い年。それなら、私とも同い年。普通なら、社会人一年生だけど。

 

「大地はふたりとも知らないの?」

「近藤さんの方は…時々家に来てたから、知ってる」

大地は答えにくそうに、ぼそぼそと答える。

そっか。ふーん、家にも来てたのか。…彼女だしね。私も行ったことあるけどね。

空くんに彼女がいるなんてことは、知ってた。だから、ショック受けるようなことじゃないもん。

 

「連絡先とか、わかる?」

「わかるけど…眞羽、会いに行くの?」

「ん~。会ってみたいなあ、って。ダメかな?」

「向こうは嫌がりそう」

「そうかな? どんな人…?」

大地に尋ねた時だった。

スマホがぶるぶるっと振動して、着信を告げてる。むねたからの電話だった。

空くんのこと、何かわかったのかな。

私は大地に「ちょっと待ってて」と声を掛けて、デッキに出る。

 

「もしもし、むねた?」

「みゅう、今、平気か?」

「うん、私は平気だけど」

走る車輪の轟音がノイズとして入るのか、むねたは怪訝そうな声を出す。

「? お前、今どこにいるの?」

「電車の中」

「何だよ、出かけてんの? 掛け直そうか?」

「いいよ。平気。それより…何かわかった?」

窓ガラスに急に自分の姿が映り込む。電車がトンネルに入ったらしい。ぷちぷち…とところどころ、むねたの声が途切れる。

 

 

「元5-3…のクラスの奴らに声かけてみたんだけど…、結局、王子と転校してから、会ってるやつなんていなかったぞ」

 

むねたの方も特に収穫はなかったらしい。

無理もないよね。5年も前の空くんの足取りを調べよう、なんて言ったって、すぐにうまくいかないのなんてわかりきってる。

 

「そっか…ありがと、むねた」

「いや、俺の方こそ、役に立てなくてわりぃ。お前の方はどうだ? 何かわかったか?」

「今ね、空くんの事故現場行ってきたとこなの」

「え? 長野だったっけ?」

「そう」

「アクティブだな~、みゅう」

感心してるんだか呆れてるんだか。ぴゅう、と口笛を吹いて、むねたはふっと笑う。

 

「いいじゃん、別に」

「いいけどさあ…、どうだった?」

むねたに聞かれたところで、ぶちっと通話が切れた。また、トンネルに入ってる。今度は、長いらしく出口は見えないし、スマホも全く電波拾ってくれない。

 

再び光が差し込んだところで、むねたからもう一度着信があった。

「電話じゃゆっくり話せないからさあ、今度会おうぜ。今回、あちこちに連絡取ったろ? お前に会いたい、ってやつ、いっぱいいたぞ?」

「え?」

「ほら、みゅう同窓会でぶっ倒れて、すぐに帰っちまっただろ?」

「あー、そっか…」

 

発端は同窓会で、むねたから空くんの消息を聞いたことだったのに、私の中で、その日のことは、遥か彼方に追いやられてた。

そういえば同窓会は、結局むねたと小枝ちゃんくらいとしか、しゃべってないや。

「うん、私も会いたい」

「おう、じゃあ、またみんなで集まれないか、声かけてみるわ」

「ありがと、むねた」

 

トンネルに入って、闇に包まれ、またそこを抜けて、明るくなる。

空くんのことも、そんな感じ。何かが明るみに出たと思っても、またすぐに見えなくなってしまう。

また連絡する、とむねたに言われ、私は通話を切って、大地のところに戻った。大地は待ちくたびれたのか、窓ガラスに頭をもたげ、腕を組んで眠ってしまってる。起こさないように、そっと隣に座り、橋本さんからもらった近藤さんの写真をじっくりと眺めた。

 

 

空くんが最後に好きだった人…、どんな人だったんだろう。