Nostalgia②


 

同窓会は、地元のレストランを借り切って行われた。

週末の昼下がり、私は案内状を見ながら、そのレストランに向かう。小学校から一緒の成田小枝(さえ)ちゃんと一緒に。

小枝ちゃんに会うのも、成人式以来で、ふたりで近況報告しながら、国道沿いの道を歩く。

小枝ちゃんは、最近会社の先輩の彼氏が出来たらしい。

いいなあ、リアル充実してて。

「眞羽は?」って聞かれたけど、話せるような恋バナのひとつもない。

「あ、小枝ちゃん、あれかな?」

話しを逸らすように、前方の白い建物を指差した。

白い外壁にパラソルの建てられた屋上。店頭には黒板がでていて、私たちの中学の同窓会で貸切って、書いてある。

「なんか、ドキドキするね」

そう言いながら、ガラス戸を開けた。

「わー、久しぶり」

「眞羽、変わらないねー」

受付にいた女の子たちと、そんな会話をしながら、会場に入った。

会場は2階で、海に面した壁は、全面窓ガラスになっていて、クロスや椅子がブルーと白で統一された店内は、マリンテイスト一色。

既に何人も集まってて、中央のテーブルには美味しそうな料理や、グラス、お皿などもッティングされてる。サイドにはお酒やソフトドリンクを提供してくれるミニバーもあって、本格的。

「結構来てるね~」

「素敵なお店だね」

小枝ちゃんと言い合いながら、談笑してる輪の中に入ってく。

その中にひときわがたいの大きな背中を見つけて、私は背後に近寄った。

「むねた」

そう言って、むねたの背中をポンと叩く。

 

振り返ったむねたは私の顔を見ると、ちょっと驚いてから、「おう」と笑った。

「みゅう」

って、また呼んでるし。私もむねただから、ま、いっか。

むねたにミュウって呼ばれるのも懐かしくて、いちいち怒る気にならなかった。

「久しぶりだな」

「うん」

むねたは、ブルーグレーのスーツに、濃紺のネクタイを合わせてる。

小学校時代の坊主頭に野球のユニフォーム姿のむねたのイメージが今も、こびりついてる私には、大人になった旧友の姿に、違和感と、ちょっとだけジェラシーも覚える。なんだよ、むねたのくせに。カッコ良くなってるじゃん。

まあでも、そんなこと面と向かって言い合うような関係でもないから、お互い軽く近況報告。

むねたは今、自動車のディーラーに勤めてるらしい。営業じゃなく、整備のお仕事らしく、普段はツナギに軍手はめて、それでも顔やら手やらオイル塗れ。

うん、やっぱり、むねたはその方がしっくりくる。

 

「ミュウはなにしてんだ?」

「私は食品卸の事務」

「ああ、お前、食いしん坊だったもんな」

「ちょ、ひどっ」

なんか、昔に戻ったみたいな会話が、くすぐったくて、照れくさい。

むねたの勤務地と私の会社は、割と近いことがわかって、「今度、仕事帰りに飯でも食おうぜ」ってむねたが言うから、LINE交換した。

 

「彼氏とか出来たのかー?」

「よけいなお世話だよっ」

「いないのかー」

「むねただって、彼女いないでしょ? 私なんかをご飯に誘うくらいなんだから」

「俺は~あれだよ。選び放題だから」

「ないない絶対ない」

「おま、相変わらず失礼な奴だな。今だから言うけどさ。俺、昔お前のこと…」

「?」

「お前のこと、悪くないって思ってたんだぜ?」

「……」

何、この同窓会あるある。いきなりそんなこと言われても。しかも、過去にさかのぼられても。

 

「昔って…」

「お前が王子のことしか見てなかった頃だよ」

ずきん、空くんのこと言われると、針で刺したみたいに小さく、だけど鋭い痛みが胸を刺す。

「まあ、王子のことは残念だったけどさ、お前なら他にもいいやつ…」

 

ダメだ、私。

空くんのことを持ち出されると、冷静でいられない。

過剰に反応しちゃう。

もう、むねたが昔、私のことどう思ってたかなんて、何処かに吹っ飛んでた。

 

 

「空くんが…なに?」

 

私が聞くと、むねたの表情が瞬く間に強張った。やべ、失言だった――そんなことを言いたげな、顔。私の隣で、にこにこ私とむねたの会話を聞いてた小枝ちゃんも、おどおどしてる。

 

(…何?)

 

「空くんが何よ、言いなさいよ、むねた」

まだ乾杯前の、みんなが旧交を温めてる会場で、私は鋭くむねたに追及する。会場中に響いた私の声に、一斉に注目が集まった。

「こっち来い、みゅう」

むねたは私の二の腕をつかんで、いったん会場の外の廊下に出た。

 

「お前が知らないと思わなかったよ」

「だから、何をよ」

私は腕を組んで、むねたを上目遣い睨み付ける。むねたは言いにくそうに何度も溜息をついてから、言った。

 

 

 

 

「…あいつ、死んだよ、みゅう」

むねたが、何を言ってるのか、わからなかった。