Nostalgia④


 

「……」

反発する気持ちを込めて、むねたをにらみつけた。そんな目で、見るなよ、と言いたげにむねたは、私から視線を逸らす。そして話しだしたことは、また私の知らない空くんのことだった。

 

「俺、高校あいつの家の近くだったから、何度か見かけたことあるんだ、王子のこと」

「…そう、だったの?」

そんな話知らない。けど、むねたともずっと会ってなかったから。「電車の中で。相変わらずおきれいな顔してたから、すぐにわかったよ。向こうが俺に気づいたかは、わかんないけどな。話しかけたことはなかったから」

「…それで?」

「あいつ、女の子連れてたよ、みゅう」

「!!」

ああ、だから連絡が来なくなったんだ…。

何度か想像はしたことはある。今の空くんの隣には、どんな子がいるのかな、って…。けれど、実際にその事実を告げられると、じわりじわりと嫌な感情が私の心を侵食してく。

 

「…そりゃ、空くんだって、いつまでも私のことなんて思ってないよ」

 

動揺をむねたに悟られたくなくて、私はわざと強がった。

 

私だって。

心を動かした人がいないわけじゃない。告白だって、されたことがある。

 

けど、空くんは、私の中で別格だったから。更新されることのない思い出を、私はいつまでも胸の中で色あせないように、ぼやけないように、温め続けてた。

 

 

空くんのことを話してるうちに、駅についた。ここ、空くんと別れた駅…。ばいばい、って手を振ったあの時は、次いつ会えるかわかんなくて、切なくなったけど、まさか、あれが最後になるなんて、思いもしなかった。

 

こんな風に日常の些細な風景も、私の中では、空くんにつながってしまう。

 

時間は、私が思った以上の早さで流れてて、そして人と人との関係も、変わってく――私だけ、過去に置き去りにされてるみたいだった。

 

 

 

電車の中で、むねたは私に座るように促して、自分は吊革につかまって私の前に立った。大柄なむねたが視界を塞いで、窓越しに見えるはずの海は全く見えなかった。

「…また、連絡するよ、みゅう」

別れ際、むねたはそう言って、私も「またね」って別れた。

 

 

予定よりはるかに早く帰ってきた私に、家族がびっくりする。

「ちょっと貧血起こしちゃったから。上で休むね」

そう言って、自分の部屋に引きこもった。

 

 

私が帰ってきたことに気づいて、くうちゃんがケージの入り口に寄って来る。

「ただいま」

くうちゃんはちょっとだけ首を右に傾げて、じーっと私を見つめてくる。いつものこの子の癖なんだけど、今日はいろんなことがあったから、その視線が余計に刺さる。

何があったの?って聞いてきてくれてるみたい。

 

「くうちゃん…」

ケージに手を入れて、くうちゃんを抱き上げる。抱っこされるのが嫌いなくうちゃんは、最初ちょっと足をじたばたさせてたけど、お腹をぎゅっと密着させると、諦めたのかおとなしくなった。うさぎの抱っこの仕方も、空くんが教えてくれたんだよなあ。

おっきな耳、黒と白、ツートンの身体、じいっとこっちを見てくる目。空くんがいなかったら、きっとこの子はここにはいない。

 

「くうちゃんに会わせたかった人、いたんだけど、もう会えなくなっちゃったんだって」

事故、かあ。あっけないなあ。

 

くうちゃんをケージに戻して、私はパソコンを開いた。

 事故、かあ。あっけないなあ。

人の一生なんてそんなもの?

 

何空くんが生きてた証みたいのを確かめたくて。

 

くうちゃんをケージに戻して、私はパソコンを開いた。放置したままのSNSのサイトで

 

 

拝島空

 

 

この名前を検索してみる。

 

 

そしたら、一致項目が一件あった。

 

 

まさかと思ったけど、ヒットするなんて…。

 

 

 

生前空くんがやってたのが、残ってるのかなあ。

ソッコーでクリックしてみた。高校の制服を着た空くんの写真がトップにある。

 

「…空くんだ…」

 

背が伸びて、顔が大人びて、でも、やっぱり穏やかな笑顔。大きくなった空くんが、そこにいた。

 

 

 

夢中で、タイムラインを追っかけてみる。写真は、行った場所や食べたものが多い。友達は公開してなかった。

 

そして…。

 

 

 

(これ、最近の日付だよね…)

タイムラインのラーメンの写真は、ほんの1週間前だ。??と思いながら、他の写真も見てみる。

 

一か月開いたり、連続で投稿されてたり、かなり気まぐれだけど、全部ここ1年くらいのものだ。

(どういう、こと…?)

 

誰かが空くんに成りすまして、更新してるってこと? だとしたら、誰が、なんのために?

基本データは空くんのものに間違いない。生年月日とか、出身とか。だから、空くんに近い人なんだろうけど…。

 

私がいくら考えたって、答えなんか出るわけない。

私は、この「拝島空」って人に、メッセージを送ることにした。

 

――小学校の時、同じ飼育委員だった海野眞羽です。…覚えてますか?

返事はすぐに来た。

――もちろん。覚えてるよ。

 

 

画面を凝視したまま、マウスをクリックした手が止まってしまう。

 

「…嘘…」

 

 

 

何だろう、この感覚…。

期待でも不安でもない。希望でも絶望でもない。

 

 

追っかけているものが真実とは限らない。それでも何か知りたくて、私は次のメッセージを送っていた。